山々に囲まれたその街を見下ろす場所に、鳴瀞学院という学園があります。 それは古くからある女子校で、昔は良家のお嬢様ばかりが通うことで有名でした。 今ではさすがに普通の私立校ですが、ここに通う女の子たちからはそんな伝統の面影が伺えるようです。 それはさておき…学院と谷を一つへだてた小山の上に、小さな神社があります。 まだ若い宮司さんは妹と二人で暮らしていて、その子の名前は楓といいました。 楓は身体が弱くほとんど学校にも行かれずに過ごしてきました。 中学校を出てからはずっと神社のお勤めをしています。 お宮のお掃除をしたり、お神籤を作ったり、夜には舞のお稽古もしたりします。 めったに人の来ない小さな神社なので、あまり忙しいということはありません。 今はもう身体も大丈夫なようですが、それでも街を離れて遠くに出かけたりする様なことはありません。 神社を少し離れると、学院を見下ろすことができる場所があります。 楓はふもとに用事があるときは、そこからちょっと学院の様子をのぞいてみます。 中庭で一緒に食事をしたり、連れ立って帰ろうとしたりしている女の子達……。 もし私が、この中のひとりだったら……楓は時々そんなことを考えてみます。 そんなとき彼女は、なんだか寂しいような気持ちになることがあります。 でも、夏休みの季節が訪れて学院が静かになると、そんなことも次第に忘れるようになりました。 学院の院長先生は楓の叔母さんが務めています。 叔母さんはお母さんのいない楓を心配して、時々楓の元に様子を見にやってきます。 山の外の生活を知らない楓のために、叔母さんは学院への編入を勧めてくれました。 楓にとっては夢のような、でもとても不安なお話でした。 それから何日かが過ぎて、楓は学院の中をすこしだけのぞいてみることにしました。 初めて入ってみた校舎は、まだ夏休みを少し残してひっそりと静まり返っています。 学校にくれば、お友達が沢山できてきっと楽しいからと叔母さんはいっていました。 それまで友達らしいひとが一人もいなかった楓には、それはとても嬉しいことでした。 ふと楓は、まだ小さかった頃になくなったお母さんのことを思い出していました。 お母さんは楓を抱き上げて、麓の学院を見せてくれながら確かにこういっていました。 あの場所で貰ったたくさんの幸せを、あなたのなかにのこしていくから…… わたしがいなくなっても、それでもあなたが幸せでいられるように…… ……母さまののこしてくれたものが、ちょっとだけわかる気がするの…… ……ここにいれば、楓はもっと、わかるようになれるのかな…… 気がつけば夏の強い日差しは、穏やかな秋の木漏れ日へと変わろうとしていました。 楓の生まれたその季節が、またひとつ移ろい、巡ろうとしています。 でもそれは自分にとって初めての季節の訪れのように、楓は思うのでした……。

このゲームはイベント選択型のアドベンチャーゲームです。 多くのアドベンチャーゲームはプレイヤーが主人公キャラを操作することで物語が進行しますが、 このゲームではプレイヤーが物語に直接関与することはありません。 登場人物たちの物語を映画のように見守ることになります。

ゲームの舞台である山間の街の全景を見渡せるマップがゲームのメイン画面となります。 ここではリアルタイムで時間が流れ、イベントが発生するとマップ上にアイコンが現れます。 クリックすることでその場で起きた出来事を見に行くことになります。 このようにしてイベントを選択していくことで物語の結末が決定されます。