歴史のスピードは一定ではない。音楽と同様に、そこには加速、停滞の緩急が存在している。
大抵の場合、テンポを司るのは強大な権力者であり、国家である。しかし、時には意外な指揮者がタクトをふるい、
歴史に変調をもたらすこともある。たとえば、パメルシエル首長国家がそうであったように……。
パメルシエル首長国家は、レイエルオン帝国と交戦状態にある小国家だった。
しかし、両国の戦力差は巨像とアリのそれにも等しく、帝国軍による定期的な爆撃と補給線の断絶という形で、
その戦いは一方的な殲滅のプロセスを辿っていた。
パメルシエルに残された選択はふたつだった。すなわち、迅速な降伏か、緩慢な滅亡か…。
しかし、パメルシエルは、第三の選択肢を自らの手で作り、実行したのである。
宇宙暦3530年、8月。
銀河帝国の中枢をなすレイエルオン帝国、その首都グロースブルクは、90回目の建国祭に沸き返っていた。
そこかしこで国家が歌われた。帝国旗が振られた。万歳が叫ばれた。
そして…爆発が起こった。
「建国祭の悲劇」。この爆弾テロ事件の被害者の中には、時の皇帝グンテル・レイエルオンも含まれていた。
しかし、それでも帝国は揺るがなかった。帝国は、パメルシエルの予想を遥かに上回る素早さで体勢を立て直した。
実に事件の翌日、グンテルの長子アンドルー・レイエルオンが新皇帝に即位した。
アンドルーはこのテロ事件を、「秩序を求める帝国全人民に対する侮蔑と挑戦である」と表明。
総力をもってパメルシエル殲滅に乗り出した。
後に言う、「パメルシエル決戦」の始まりである。